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が、練吉が駆け登つたのを見ると、先方の男は急に威丈高になつて怒鳴つた。
家督を継いだ文太郎が間もなく酒造業をやめた時に、直造は少からず不満だつた。文太郎は種々の理由から説得した。が、最大の理由は法学士だつた文太郎が帳付よりも地方政治に興味を持つていたことにあるらしい。果して、文太郎の濫費のために一時は不動産の大半が銀行担保に入つたことがある。直造は不機嫌だつた。しかし、欧洲大戦が始つて以来の好景気が鍵屋の財政を持ち直しはじめていた。
間もなく房一が帰つて来たらしい。
「どうも御苦労さま、暑いところを」
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
房一は、これは煩うるさい相手だなと思ひながら、わざとゆつくり構へていた。実は、さつき裏口から二人を見かけた時に、すでにぴんと感じていた。こんな風体の連中は河原町には他にない。それに、今しがた川岸で話に出たばかりの所だつたので、房一にはよけい強く頭に来た。
「ハッパさね」
傷は三箇所を縫つた。
「あゝ、よからう。大賛成ですよ」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
盛子は時々半ば無意識に呟いた。
小谷は房一に話しかけた。
「畜生、おぼえていろ。」